[WikiJA-l] Re:挨拶とGFDL解釈 (更に大きな文脈の解説・まとめ)

wiki_tomos wiki_tomos @ inter7.jp
2004年 7月 4日 (日) 07:37:37 UTC


From: Sphl 
To: Mailinglist of Japanese Wikipedia <wikija-l @ Wikipedia.org>
Sent: Sun, 04 Jul 2004 09:39:17 +0900
Subject: Re: [WikiJA-l] Re:	挨拶とGFDL解釈

から抜粋・引用しつつお返事します。

>At 2004/07/04 05:22:46 Sui Min wrote:

>> このまま議論を続けるのでしたら
>> もう一度全体に見える場所で[[ノート:フォークランド諸島]]での議論も再検討し
>> 新たな提案などをするのであれば提案の文書とともに
>> 議論を逐一追いかけていないユーザーへの広報用の説明を同時に求めます。

>前回Wikipedia:著作権のノートで提案したように、これまで(少なくとも今年の
>始めからのT.NakamuraさんとTomosさんを中心とする議論開始以来)を整理して
>皆にわかりやすくし、多くの人に議論に参加してもらう努力をすべきだと思いま
>す。いろいろ展開が急なので、やりたいと思ってもぜんぜんてがついていないの
>ですが。

>現状のWikipedia:著作権での解釈がなぜそうするのが一番自然、ということに
>なったのかを共有してからでないと、なぜそれを直すのか直すことでどうなる
>のか、といった議論には入り難いと思いますので。
>
>もちろん、その解釈の是非も議論すべきです。


少しやってみます。

1)これまでの議論

まず、既にある文章が3つぐらいあると思います。

T. NakamuraさんやTomosがやった議論の結論の要点は、井戸端BBSの方で
一度紹介され、意見を募っていました。2月末ごろのことです。

http://taurus.kake.info.waseda.ac.jp/wikip/joyful/joyful.u.cgi?mode=res&no=974

この際は引用や商標、画像の扱いなどが主な議論になりましたが、履歴の
扱いについては特に異論も質問も出なかったように記憶しています。

それから、「Wikipedia:履歴」のページでは、最後の方にQ&Aの形式をとって、
簡単な解説を付しました。先月のことです。

http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia%E2%80%90%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88:%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9

先月はもうひとつ、「Wikipedia‐ノート:著作権」の長大な議論をとりあえず
最新版からは取り除いて、当面の議論に関係がありそうな部分のみを
まとめました。現在「特に関連のある議論」というセクションにまとめられている
ものがそれです。これも疑問と回答、という形式をとってそれまでの議論の一応の
到達点をまとめたものです。

http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia%E2%80%90%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88:%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9#.E7.89.B9.E3.81.AB.E9.96.A2.E9.80.A3.E3.81.AE.E3.81.82.E3.82.8B.E8.AD.B0.E8.AB.96


2)これまでの議論への簡単な入門

著作権法も、GFDLも知らない、という方にこの議論についてきてもらうのは
正直気が遠くなるほど大変なことのような気がしますが、ウィキペディアにとっては
利益になることだと思うので、一応簡単な説明を試みます。

例によって、質問、訂正などありましたらお願いします。

それから、以下の話は、僕の知識不足と、話をわかりやすくする都合上、おおざっぱな話
になっています。実際にはいろいろと例外があったり、用語の使い方が正確でなかったりする
部分もあります。


A GFDLとウィキペディアの基本的な関係について



そもそもGFDLとは何で、ウィキペディアにどう関わっているのか、という点を書いてみます。

GFDLというのはGNU Free Documentation Licenseの略で、ライセンスの一種です。
ライセンスというのは、ここでは、ある権利を持つ人が、自分の権利に基づいて
他人に許可を与えるもの、というぐらいに考えるとよいかと思います。

「ここは自分の土地だが、お金を払った人は駐車場として使ってもいい」、という許可と
似たようなものです。
(微妙に違うと思いますが、それをうまく説明できる方のフォローをお待ちしています。)

GFDLの場合には、土地に関する権利ではなくて、著作物をめぐる権利(著作権)が、
主に問題になります。

「これは自分の著作物なので、どういう風に利用するか、しないかについていろいろ
自分が権利を持っているけれども、一定の条件を満たすことと引き換えに、誰でも
使っていい」というのがGFDLの要点です。(と僕は理解しています。)

ウィキペディアにそれがどう関係するか、というと、「自分はウィキペディアに文章を
投稿するけれども、投稿した文章は、一定の条件を満たすなら、他の人が自由に書き換えたり、
プリントアウトして販売したり、他にもいろいろなことに使っていい。」という許可が、
ウィキペディアの文章についてはあります。この許可の具体的な内容は、GFDLと呼ばれている
文書にあたります。

そこで、GFDLを読むと、何が許可されているのか、どういう条件を満たさないと
いけないのか、がわかる仕組みになっています。

この許可の内容については、ウィキペディアの参加者の誰かが書いたわけではありません。
GFDLというのはウィキペディアが出来る前から存在していました。既に他の人が
作成したものが、「もしも自分の文章などを他の人が自由に利用してもいいと思う人は、
このGFDLをつけて公開すれば、そういう許可をきちんと出す助けになるかも知れません」
というような形で、提供されていたものです。で、ウィキペディアもそれを採用することに
したわけです。

ちなみに、ウィキペディアでは他人の投稿した文章を書き換えてよいことになっていますが、
これは、GFDLのお陰でそうなっています。ウェブサイトなどで見かける文章を勝手に
コピーして書き換えてどこか別の場所に投稿すると、それは元の文章を書いた人の権利を
侵害することになってしまいますし、結果として訴えられたり、賠償金を払わなければ
ならなくなったりすることもあります。

ですが、GFDLで提供されている文章は、一定の条件を満たす限り、書き換えてもよい
ことになっています。

GFDLの要求事項の中にはいろいろなものがありますが、「このGFDLで提供されている
文章をを改変したりコピーしたりしたら、そうやって出来た文章も、同じGFDLの条件
によって他の人が利用できるものとして提供しなければいけない」という主旨のものがあります。

今回の一連の議論は、「GFDLはどうもウィキペディアにとっては都合のいいこと
ばかりではなく、要求事項の中にはいろいろ面倒なものがある」という話なの
ですが、「面倒だからと言ってGFDLの内容を変えることはできない。では何ができるか?」
というのがひとつの大きな問いです。

もうひとつ、GFDLはもともと、本を書いて発表する人や、本の出版社などが使うための
ライセンスとして用意されています。そこで、ウィキペディアのようにウェブサイト中心で、
かつ百科事典で、しかも膨大な数の参加者が次々書き換えていく、というようなプロジェクト
のことは必ずしも想定されていません。そこで、「GFDLはウィキペディアにあてはめて考えると
どうなるのか?」という疑問があちこちに出てきます。

この2つの問題「ウィキペディアに都合の悪いGFDLの制限事項」と「ウィキペディアにGFDLを
どうあてはめたらいいか」は互いに関連しています。ある特定の形でGFDLをウィキペディアに
あてはめると、ある種の問題はそもそも存在しないことになります。



B 「解釈」の問題

GFDLがウィキペディアにどういう風にあてはめられるのか、という問題の例として、「Work」
とか「Document」と呼ばれるような、基本的な作品の単位がウィキペディアでは何にあたるのか、
というものがあります。

ウィキペディアは現在80以上の言語で展開されている百科事典ですが、それら全てがひとつの
作品なのでしょうか。
それとも、日本語版なら日本語版が、ひとつの作品でしょうか。それとも日本語版の中でも別々
の記事は別々の作品でしょうか? そういう点については、GFDLを読んでも直接的な回答は
書いてありません。(GFDLはウィキペディアを想定して作成されたものではないので当然と
言えば当然です。)

そして、これについてメーリングリストなどで他言語版の人に聞いてみると、実際に人によって
違った答えが返ってきます。(全言語版併せてひとつの作品だ、という人もいました。)英語版
なら英語版の中で統一見解があるか、というと、そうとも限らないようです。(日本語版では、
一応統一見解が存在しています。)

GFDLには、いろいろな要求事項が含まれているわけですが、ウィキペディアで何をするとGFDLの
要求事項に違反することになるのか、何をするとGFDLの要求事項を満たすことになるのか、は、
作品の単位が何であるかによって違ってきます。

例えば、「ある文書 A の一部を利用して別の文書 B を作成する場合」には文書 A の著者名など
を文書 B に明記しておかないといけない、というような要求事項があります。これを
ウィキペディア内で文章をコピー&ペーストする場合にあてはめると、次のような2通りの
可能性が考えられます。

可能性1) ある記事 A の文章をコピーして、別の記事 B に投稿した場合には、2つの記事は別々の
作品なので、記事 A の投稿・編集者のリストを記事 B に明記しておかないといけないことになる。

可能性2) ある記事 A の文章をコピーして、別の記事 B に投稿した場合には、2つの記事は、
同じひとつの作品の別々の部分にあたるので、記事 A の著作者リストをわざわざ記事 B に
明記しておかなくてもよい。

他にもいろいろな可能性が考えられますがそれは省略します。

もうひとつ、同じ要求事項について、ウィキペディアの記事を1本、ウィキペディア外の自分の
ウェブサイトに掲載したい場合にあてはめて考えて見ます。

可能性1) ある記事 A の文章をコピーして、別のウェブページ B を作って公開した場合、元の
記事と自分の作成したウェブページとは別々の作品なので、記事 A の投稿・編集者のリストを
ウェブページ B に明記しておかないといけないことになる。

可能性2) ある記事 A の文章をコピーして、別のウェブページ B を作って公開した場合、
元の記事はウィキペディア日本語版という作品の一部で、自分の作成したウェブページとは
別々の作品なので、記事 A を含むウィキペディア日本語版の著作者リストを、ウェブページ B に
明記しておかなければいけない。

この他にもいろいろ考えられますが、それも省略します。

以上のように、ウィキペディアにおける作品の単位は何か? という問題ひとつとっても、
それに対する答え次第で、何がGFDLに違反することになり、何がGFDLの要求事項を満たすこと
になるのか、が違ってきます。

これがGFDLの解釈の問題です。

3)議論の大枠

以上のような議論を含む、更に大きな文脈についても書いておきます。

そもそも何故GFDLについて議論する必要があるのか。そもそも何故ウィキペディアと
GFDLの関係についてそれほど問題になるのか、といった点です。これも、上の説明と
同じく、概略ですのでいろいろ例外について述べていなかったり、厳密には正しく
なかったりすると思いますが。

GFDLにはいろいろな要求事項があるので、うっかりしているとそれを守らないことに
なります。守られなかった場合、それは著作権侵害にあたることになります。

著作権侵害があった場合には、侵害された人が、侵害した人を訴えて賠償や謝罪などを
要求することがあります。

それから、具体的に著作権侵害があることを知らされた場合、管理者は、リーズナブル
な時間内に削除などで対応する義務があります。これは管理者が削除の操作ができる
立場にいるためです。また、ウィキペディアの法的な運営主体であるウィキメディア
財団も、著作権侵害などの問題があった場合にはそれを速やかに解消する義務があります。

GFDLがどういう風にウィキペディアにあてはまるのかがわからない場合、そもそも
何がGFDL違反で、何がGFDL違反でないかがよくわからなくなり、従って管理者も
何を削除した方がよく何を削除しない方がよいのかなどがわからなくなります。

また、ウィキペディアは自由に利用できる情報資源を提供するはずなのですが、
実際には、ウィキペディアの記事を外部で利用するにはどうしたらよいのかが
はっきりしなかったり、はっきりしていてもそれを実行するのが面倒だと感じる
ようないろいろな要求事項があったり、新聞や雑誌などメディアの特性に
合っていなかったり、いろいろと不都合があります。

GFDLはウィキペディアをめぐる法的な権利と義務を規定している主要な要素のひとつ
なので、一般的に、法律的な問題に結びついています。

この解決方法として、これまでに検討されたものは以下の通り:

−解釈がはっきりしない部分をはっきりさせる。(一応、Wikipedia:著作権などの
書き換えを通じて実現しました)

−GFDLを放棄する。(これは、今まで日本語版で作成した記事を全て放棄し、英語版
などからの翻訳もできないことになるので、今のところは真剣に検討されていません。)

−ウィキペディア日本語版に投稿されたものは、ウィキペディア日本語版の内部や、
その他の姉妹プロジェクトで利用する分には、GFDLに従わなくても法的には問題がない
というように投稿者に許諾してもらう。(利用規約の草案にはありますが、導入はされて
いません。)

−ウィキペディア内で、2人の参加者間で発生した著作権侵害については、すぐに
法廷に持ち込まずに、まずはウィキペディア内部の紛争処理手続きに従って処理する
ように、参加者に承諾してもらう。(利用規約の草案にはありますが、導入はされて
いません。)

−ウィキペディア内で、2人の参加者間で発生した著作権侵害については、それが
速やかに削除されなかった場合でも、著作権を侵害された人はすぐに法廷に持ち込まず、
まずはウィキペディア内部の紛争処理手続きに従って処理するように、参加者に承諾
してもらう。(利用規約の草案にはありますが、導入はされていません。)

−GFDLを作成・改訂しているFree Software Foundaion に働きかけて、GFDLをもっと
ウィキペディアの事情に合うようなものに変更してもらう。(今のところ動きはありません。)

−GFDLと似ていて、より使いやすいという評判のあるクリエイティブ・コモンズの
ライセンスに切り替えられるように、Free Software Foundationと Creative Commons 
に働きかける。(今のところ動きはありません。但し両団体の間でそういう話がある
とは言われています)


4)現在採用されている解釈の要点

以下は、以上のような文脈をご存知で、既に著作権法も多少はわかっているし、
GFDLも一応は読んでみた、という方向けの解説です。

現在のWikipedia:著作権に提示されている解釈の要点は、「総則」のセクションにあります。

作品の単位、変更不可部分(Invariant Sections)、表表紙テクスト(Front-Cover Texts)、
背表紙テクスト(Back-Cover Texts)、タイトル・ページ (Title Page)、著作権表示、
ライセンス表示、などGFDLで使用されているものがウィキペディアで何にあたるか、
そこにまとめて書いてあります。

これまでの議論を参考にする限り、ウィキペディアにとっての考えどころは作品の単位です。

それから更に、「ウィキペディアにおける編集」というセクションで、以下のような点が触れられています。

−GFDLは改変した場合には必ずタイトルを変更しなければならないとあるが、それを守らなくてもよいのか?
−GFDLにあるPublisherというのはウィキペディアでは誰にあたるのか?
−GFDLでは、文書の過去のバージョンのネットワークロケーションの保存を要求しているが、それを満たす
ためには何をするといいのか?
−GFDLでは、文書を利用した場合、過去のバージョンの主な著者5名以上を挙げるように要求しているが、その
要求事項を満たすのに何をすればいいのか?
−GFDLでは、文書を利用した場合、過去のバージョンのPublisherを明記するように要求しているが、その要求
事項を満たすのに何をすればいいのか?


「ウィキペディアにおけるコピー・アンド・ペースト」のセクションでは次の点に触れています。
−コピー&ペーストを行った場合には、コピー元のページの履歴情報をペースト先につけなければGFDL違反
になってしまうのではないか?
−2つ以上のコピー元からペーストを行う場合にはどうするといいのか?


とりあえず以上です。


Tomos



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